 幽霊
人間は肉体の死後も、霊魂として生存しつづけている。 それは、稀薄な一種の幽体(エクトプラズム)であり、一定の重量実質をもっている。
肉体の死後に死者は地球のまわりを包む霊界に居住する。人間とのあいだにコミュニケーションを保つことは可能である。
幽霊出現の理由は,多くの場合,生前の恨みによっている。しかし,必ずしもそれに限られているわけではなく,この世に残したあるいは死後に生じたこの世の出来事へのさまざまな想いに導かれて出現する。
『東海道四谷怪談』のお岩は,自分を毒殺した伊右衛門に対する恨みを晴らすために, 『怪談牡丹灯籠』のお露は,恋人の新三郎への深い愛情のために出現している。
幽霊には足がない,人通りの絶えた丑満刻,白装束姿で,額に烏帽子のようなものをつけ,青ざめた顔をして髪を振り乱して,柳の下から「恨めしやあ」と出現する,という固定化した幽霊像も今日の人々のあいだに定着している。
このようなイメージは近世の画家や劇作家・芸能家たちの作品のなかに登場する幽霊像である。
こうした幽霊像は死者のイメージからつくられており,白装束は死装束であり,額につけらている三角の形をした鉢巻は,今でもところによって行われている葬式参列者たちのつける額烏帽子と同じものである。足のない幽霊のイメージも,円山応挙の発案によるものである。 したがって,「幽霊」という語が流布したころの幽霊は,この世に深い恨みを残したために死者の霊が冥界に赴かずに棺から出現し,恨みを晴らすため死装束でこの世をさ迷っている霊と考えられてた。
幽霊が出没する時刻にも夜のイメージが強いが,亡くなった時刻と同じ時刻に,死者が生前に愛していた子供や恋人の前に現れたという話もよく聞かれる。出没時刻に決まりはないようだ。
また,出現場所や出現する相手にも決まった約束はないのだが,現代の幽霊は自殺した場所や殺された場所に出現する傾向が強い,このため,その場所を訪れた,生前に幽霊となんの関係ももたなかった他人の前に出現するという奇妙な特徴が認められる。
これは,科学文明の発達によって,現代の幽霊が,時空を超えて特定の人の前に出現した昔の幽霊のような能力を失い,活動領域も限定されてしまったことを意味しているのだろう。幽霊の出現を防ぐためには,昔から,宗教的専門家による怨霊鎮め儀礼を行うのがよいとされてきた。
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